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無人契約機男に贈ったアドバイス



ある日私は大型ショッピングセンターの片隅に設置してある消費者金融の無人契約機の前を通りかかった。
無人契約機男に贈ったアドバイス
無人契約機の前で目を血走らせた初老の男が操作に手間取っている。

大げさに独り言を言いながら、チラチラと周りを伺っている。
明らかに関わりたくない状況だが、その時の私はとにかく人と話したかった。

かまって欲しいのはお互い様だったのである。

「どうされましたか。」

男がこちらを向いた。
遠目に見た時よりは若いのかもしれない。しかし私よりは年上に見える。

「どうもこうもねぇつーの。金がねぇつーの。」
「お金を借りたいのですか。」
「見てわかんねぇか。こちとらバイトの給料日までまだ10日もあるっつーの。全財産500円だっつーの。今日の夕飯も買えないっつーの。」

案の定、男は私が聞いても無いことをまくし立てた。

昔「だっちゅーの」というキャッチフレーズを言う2人組の女性アイドルグループがいたことを唐突に思い出した。「だっちゅーの」に免じてちょっと話に付き合ってやろう。

「お金を借りるのはおよしなさい。」
「はぁぁ、金がなくてあと10日どう暮らせっつーの。」
「誰かに恵んでもらいなさい。」
「ワシに物乞いしろってか。できるかっつーの。」

自分のことをワシと言う人と話す事はあまり経験のない事だ。
なんだか楽しくなってきた。

「なぜできないのですか。」

「そんな恥ずかしい事できるか。借りるならまだしも、恵んでもらうなんてできるかっつーの。」

「借りたら、返さないといけません。給料が入ってお金を返した後、次の給料日までお金は足りるのですか。また借りることになるのではないですか。」

「うぐぅ。」

「なんで恥ずかしいと思うのですか。恥ずかしいと思うから恵んでもらいたくないのですか。本当は恵んでもらうのが嫌だから、恥ずかしいという感情を言い訳にしているのではないですか。」

「人から変に思われるだろうが。」

「思うのは他人。他人が何を思っているかなんて、なんであなたがわかるのですか。仮に思っていたとして、それがあなたが恥ずかしがる理由にならないでしょうに。」

男は年下から言い返されたことに気分を害したのか、さらに目を血走らせ私をにらみ付けた。周囲に人影はすっかり無くなっていた。

「行動するなら、今です。私たちは今を生きているのです。この先の角を曲がると、自動販売機コーナーがあります。そこを通りがかる人たちにコインを恵んでもらうのです。100円でも10円でも構いません。何度も何度も恵みを乞うのです。恵んでもらったコインで、このショッピングセンターの閉店間際に、食料品売場の安くなった惣菜を買うと、あなたは食い繋げるでしょう。」

「……っつーの。」

「今のこの状態も永遠に続く訳ではありません。10日後にはまた違う世界が待ってます。あなたは他人の思っている事など妄想せず、今できる最善のことに精一杯打ち込むべきなのです。」

つい力が入り声が大きくなってしまった。

「……。」

「だっちゅーの」に似た口癖が聞けなくなったので、私は興味を失いその場を後にした。私のアドバイスを実践してくれることを期待して。

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